神無月の巫女感想 - 悲劇をフォーカスしない残酷さ。箱庭空気の純度

神無月の巫女感想 悲劇をフォーカスしない残酷さ。箱庭空気の純度

神無月の巫女DVD-BOX

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  • 発売日: 2009/05/22
  • メディア: DVD

面白かった。
避け得ないことだが、2018年視点で見てしまった部分がある。当時リアルタイム視聴した人がどういう感想を持ったか知りたい。

以下の感想は、twitterで百合クラスタの下馬評を見て興味を持ち、アニメ版を見たもの。原作はマンガだと思うけれど読んだことがない。

第一話で主人公たちの暮らす村が襲われて、建物や住人に被害が出た旨が示される。親しい友人にも怪我人が出る。きっと死者も出ていて、痛ましい出来事として描写される。
一方で二話以降、敵陣営のキャラクター達が出撃する時に、理由もなく赤子の手をひねるように町を破壊したり戦闘機を撃墜するシーンが入る。
一話の村襲撃とは桁違いの死傷者が出ているはずなのだが、犠牲者を一切写さない。被害の描写はあっさりしており、特に町の破壊シーンは壊れる建物のシルエットで済ませられてしまう。
なぜなら二話以降の被害は「主人公たちしか事態に対処できない」という説明シーケンスに過ぎないからだ。
(描画のシルエット化自体は、作画コストの節約が理由なのだろうけれど。)

そして物語は一話以降、犠牲者を取り上げない。
作劇として見ても、村に起こった悲劇だけで主人公たちの戦う動機が成立するため、以降の悲劇を絡ませる理由がない。(とても合理的だ。)
外側でどんなに酷いことが起きていても、その世界の命運を司る戦いのフィールドは村に、物語は主人公たちと敵陣営の関係性に閉じている。
結果、物語の視点は外の世界で起こる悲劇に対して無関心である。物語から美術まで無関心さを共有することで、統一感のある箱庭世界の空気を生み出している。

町の破壊と同じくこの物語で面白い「あっさりさ」はもう一点。それまでロボット戦で死なない条件付き不死身みたいな雰囲気だった敵側キャラたちが、15分もないシーケンスでさくさくと死ぬ。というか場面切り替えで死んでた。敵も死なない系のヌルい物語かと思っていたところでの切り返し。これもまたメタな尺の都合なのかもしれないけれど、単純に面白くて個人的にとても良かった。

匂わせる、とはまた違う。規制にかかるほど直接的にゴア描写をするわけではないけれど、物語の中では残酷な出来事が平然と起こる。しかしねっとり描写されることなく、主人公たちの視界に映らない所で起こるからストーリー上に取り上げられない。物語もそれに関心がないというあっさりさで悲劇を特別扱いしてやらない。

個人的に上手いなと思ったのは、敵側キャラが各々世界を壊したく成るほど恨むようになったエピソードを紹介するシーン。人体実験の被験者にされた(と思われる)キャラが、それを説明する止め絵で笑顔だったこと。いかにも痛そうな絵を入れるよりも残酷さが強調されて、とても効果的だ。
(ついでにあのキャラ、アニメのいかにも萌えキャラ・ロリキャラ然とした恰好が、実は残酷なバックグラウンドから出てきているのだ、という使い方は上手くて感心した。)

あと百合について。

2018年は百合飽食の時代であり、むしろまっとうな異性愛テーマ作品のほうが珍しい時代である(要出典)。なので結末に特に驚きはなかった。
だけれど視聴後に冷静になって振り返ると、当時は超展開扱いされなかったのだろうかと勝手に心配になる。これは説明不足とかではなくて、どう丁寧に説明を重ねても説得は難しいのではという感覚の問題だと思う。(いや、当時のリアルタイム視聴でないので本当に当時の空気感がわからないのだが。)

お嬢様学園要素、ごきげんようとかお姉様とかがキツいと感じるのは、2018年だからというより私個人の問題。心を広げていきたい。精進せねば。
同じように気になる人は、お嬢様学園要素は物語が必要とする場所に正しく配置されており、無駄に出てくるものではないから安心していい。

事前評で聞いていた通り、男キャラは本当に、本当に良い奴だった。これで男は百合作品に登場する事自体が許されないのだ等、言うのはわかるが言った側に配慮がないと思われても言い訳が思いつかない...。
(「あいつはいいやつなんだが、あの戦争で兄弟を、な。分かってやって欲しい」とかか? あ、好きなジャンルについて心が狭いことは悪いことでは全くないと私は思っています。念の為)

話を戻す。

神無月の巫女、下馬評では、
- 当時本当に珍しかったアニメ化までした商業百合作品
- 百合とロボット(しかもスーパーロボット系)をミックスしたゲテモノ異色作である
といった点が強調されがちで、もちろんそれも興味深い作品なのだけれど、それとは別に、
- 世界と悲劇に対する無関心さが通底した作品美術とストーリーが、世界観に残酷さを生み出す
- それらが一体となって箱庭空間を生み出し、セカイ系が入った悲劇的百合の物語とマッチして空気の純度が高い

事前のゲテモノ評に対して(もちろんゲテモノ怪作なのだが)、単にゲテモノに終わっておらず、きちんと食い合わせ良くまとまっている。
オススメ。