意図していないほうがまずい

意図していないほうがまずい

こういう考え方もできるよねという屁理屈です。屁理屈なんです。政治は詳しくないので、本エントリはマンガかアニメの話をしていると思って読んでください...。

ありがちな政治的な発言として「まさかこんなことになるとは思ってなかった」という台詞がある。
これは「悪意があってやったわけじゃない」「こんなことになるとは思っていかった」という意味の言い訳で、意図して害を与えたわけではないから私は悪くない、ということらしい。
が、政治でこれはまずい。

ソフトウェア業界には「仕様」「バグ」という2つの言葉がある。
仕様とは、ユーザであるあなたにとっては想像していなかったことを製品が引き起こし、あなたに害を与えたかもしれないが、私には最初から判っていたことであり意図した動作である、という意味を持っている。
例えばチェーンソウは木を切るとても便利な道具だが、人間の腕を切り落とすこともできる。無垢なユーザは、木を切るために買ったチェーンソウを使って自分の腕が無くなるかもとは全く想像さえしない。一方でチェーンソウの製造元は全てを知っており、腕でも足でも木の枝でも見境なしに切り落とす道具であることも理解している。だからユーザが腕を切り落とさないよう、チェーンソウ起動ボタンに安全装置を付けたり、注意書きの書かれた分厚い取扱い説明書を付けて対策することができる。(ユーザが安全装置をダクトテープでONに留めたり取扱い説明書を読まないのはまた別の問題だ。)
一方でバグは製造元が意図していなかった動作のことを言う。
枝を切る代わりにユーザの頭の上に花が咲くチェーンソウを製造する業者はいないので、もしもチェーンソウを使っていてユーザの頭の上にポピーが咲いたならそれはバグだ。バグは、起こす現象に一見害がないように見えても、チェーンソウ製造元は自分たちの作っているチェーンソウについて何か大事なことを知らないことを意味する大変危険な兆候であり、次にユーザの頭に生えるのがポピーではなく包丁の柄ではないとは誰にも保証できない。

さて、政治における仕様は意図していたということだ。害が起こっても被害はここまで、全体的には益のほうが大きい、害が起こることと、害の大きさを十分考慮してその範囲から漏れる大きな害は発生しないことに責任を持った、という意味である。
チェーンソウがなければ哀れな犠牲者が出ない代わりに朝から晩まで斧を振るうことになり、腕を落とす者が出たとしても、木を切るのが楽になるため全体では幸せが増す。
(注意:誰にとっての害と益か、どこかに不幸だけをしわ寄せしていないか、には常に注意する必要がある。)
一方で、「まさかこんなことになるとは思ってなかった」という台詞はバグだと言うことだ。つまり、どのような害悪が起こるかわからないし考えていなかったということだ。
あえて悪意のある受け取り方をすれば、「私にはあなたに害が及ぶかどうかに関心がなかった。あなたが死のうが不幸になろうが構わないしそのことを真剣に考えてはいなかった」と取ることもできる。
政治家や大企業の意思決定担当者といった、大人数の生命と幸福に関わる人がそういう発言をしていたら、確率的に犠牲になる人数が不要に増えている可能性があり、自分が犠牲者になる可能性が上がっている。これは危険な状態だ。

だから、「意図していなかった」という言葉は、「分かっていてやった」と言うよりも、ずっと悪い状況だと、私は思うことが多い。

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なお、悪意があるならちゃんと考えている分だけナンボかマシ、というのはさすがに言い過ぎである。以上蛇足。

// 関連する話:世の中の色々な事はわりと余裕なく最適化されている。それは悪いことではないけれど、自覚していないとまずい。