荒巻提督ルナティックモード - 艦これのゲーム性とシミュレーション性 -

荒巻提督ルナティックモード - 艦これのゲーム性とシミュレーション性 -

「初めまして!司令官!」

「初めまして!司令官!」

  • 発売日: 2016/11/09
  • メディア: Prime Video

「『艦これ』ってゲームとしては恐ろしく面白くないからな。資材管理と出撃の指示ばっかりで、戦闘勝手に進むし。FPSやってたほうが性に合うんだよな」
「それは君が重度のFPS中毒患者なだけな気もするけれど...。まあ、艦これは、ゲーム設計が、ゲームが本来持つべき快楽原則に大いに反していると言えなくもないかな。語っても良い?」
「どうぞご勝手に」

「まず、動物は60秒以内に報酬または罰を受けなければ、行動と結果を結びつけることができない。これは行動分析学という学問によってかなり昔からわかっている。これは人間にもあてはまる。

FPSと艦これを比べるとわかりやすい。
FPSゲームは人間の快楽原則に従って作られている。自分が狙いをつけて銃を打つ。すると、次の瞬間には敵が死んで弾が当たったことがわかる。自分で判断した行動が結果に反映されて、上手く行ったことがひと目でわかる。判断と行動は全てコントロールできるし、行動から報酬=快楽は60秒以内に得られる。たとえ不幸な結果になってもそのことを受け止めて次へと繋げる気になれる。
一方で、艦これはFPSとは真逆のゲームデザインになってる。
まずコントロールが効かない。提督がコントロールできるのは、物資を配分して部隊を編成し出撃を指示する、出撃前まではコントロールできます。船というユニットを万全の状態で出撃させるところまではできる。しかし、戦闘に出てしまえば、自分の判断は間接的にしか反映されず、手を出せない。まあ実際は絶無ではないのだけれど、『ガンガンいこうぜ』『いのちをたいせつに』で、自分というユニットは戦場に出ないから戦闘に介入できない。そもそも、艦これのゲーム目的と快楽報酬は、戦闘で集めた資源を元手に艦娘を育てたり新しい艦娘を手に入れることであって、目の前の敵を倒すことには無いのだけれど。
艦娘たちはプレイヤーである提督とは独立した独自の判断をして、その結果ダメージを負い提督の持つ貴重なリソースを消費する。大破轟沈することすらある。これも再建のために大いに提督の保有資材を消費する結果をもたらす。
もちろん艦娘たち自身も轟沈という不利益を被っているわけなのだけれど、まあそれは置いておくと、彼女たちの判断と行動の結果を享受するのは提督、つまり自分だ。管理職の苦悩、他人の判断の責任を負わされるのは自分の失敗の責任を被るよりずっとストレスフルなことなんだよ。
『自己責任』という言葉は、裏返せば、他人から押し付けられるより自分で決断した結果を享受するのだと考えるほうが不幸な結果を受け入れやすい、という意味でもある。
報酬についていえば、艦これは、報酬=快楽が得られるまでのレスポンス時間も遅い。艦これの報酬は資材の増減。何度かの戦闘シーケンスを経て、資材は得られたか、艦隊の損害はどれほどで、差し引きで得られた資材に見合う結果になったか。ユーザは自分が幸福になったか直感的にはよくわからないので考えて計算しなければならない。

つまりゲーム版『艦これ』は、
・ユーザは結果の結果=快楽をすぐに得られない
・ユーザは行動をコントロールできず、隔靴掻痒のストレスを感じる
・しかも自分が必ずしも関知しない判断の責任を負う立場
というストレスフルな構造になってる」

「なんかよくわからんけど、話をきいていたら、艦これがすごくつまらないゲームである気がしてきた」
「いやいや、そんなことはないんじゃない? わたしはプレイしてないから知らないけれど」
「してないのかよ! それでよくもまあ無責任に滔々と話すなあ」
「うん。艦これ語りは面白いからね。ところで君、これによく似た構造があるんだ。君はたしか攻殻機動隊が好きだったよね」
「ああ大好き」
「荒巻提督は公安9課という最強の艦隊を率いる提督だ。その仕事は、主に出撃と資源の管理にある。内務省に認めさせて組織の活動予算を捻出し、9課鎮守府の土地建物と維持費をコントロールし、思考戦車タチコマの購入と維持管理の手回しをし、総理から承諾をもぎ取って出撃許可を出す。荒巻提督は優秀な提督で、Level100超えの空母と戦艦ばかりを集めた少数精鋭部隊を運用して戦果を次々とあげているけれど、リソースを注ぎきった最強の第一艦隊という現在の編成は、いつか来るもしもの大破轟沈に弱いことにも気づいていて、最近は艦隊の維持存続のために現在の体制から下級艦のローテーション運用に移行する構造改革を計画している。そのために新人獲得と育成計画、組織編成の変更と策定にも熱心なのだという。
艦隊旗艦の素子という大戦艦は、出撃するたびにめちゃくちゃ資源を消費する。艦これでは赤城あたりが資源を大食いするので、二次創作などでもよくネタにされると聞いているけれど。草薙級一番艦草薙素子は、この資材をめっさ食う。めがっさ食う。食うが強い。
ところで大戦艦としての素子が何を食うかと言うと、艦これ版攻殻機動隊には、政治値という資源がある。これが枯渇すると、違法な捜査方法のもみ消しや借りてきて壊してしまった米帝の備品の弁償とかができなくなっていき、最終的に敵対組織の手が回ったり、荒巻課長の手が後ろに回るなどして、公安9課は解散させられてしまう。
そして捜査という名前の出撃をすればするほど、政治値は消費されていく。艦これと少し違うのは、この政治値の扱いで、公安9課は犯人逮捕または確保できなければ無力化が成果報酬だったりするので、素子艦を出撃させるだけでは、政治値の資源は消費するばかりになる。そこをどうにかするのが荒巻提督の手腕で、どうするかというと、たぶん、いろんな組織に対して、犯人確保や無力化とバーターにしてる」
「よくある公安9課艦隊の出撃をストーリーにするとこうなる。素子艦を出撃させると、なんやかんやで犯人を確保する。その時に大いに資源を消費する。備品のタチコマはぶっ壊すし武器はぶっ壊すし街はぶっ壊すし、ついでに米帝の試作兵器あたりを勝手に借りてきて使い、しかもそれもぶっ壊す。荒巻提督が活躍するのはここからで、まず外務省に『このまえ外務省の仕事にちょっかい出していたのをあの事件の犯人、こっちで逮捕したの覚えてる?』ってやって、犯人逮捕という報酬から政治値を生み出す。それから『あの時のあれとバーターで、怒ってそうな米帝の役人宥めておいてよ』と資源消費して回復をやる。
君が提督として感じている苦労を、公安9課の荒巻課長は一身に受けている。
普通の提督は戦力としてではなく、資源消費の問題で赤城や大和の出撃を渋るわけですが、荒牧提督はうまく資源捻出をやって、戦艦空母をまさしく実戦運用してる。本当にすごい提督ですよ、荒巻提督は」

第2話 暴走の証明 TESTATION

第2話 暴走の証明 TESTATION

  • 発売日: 2016/08/05
  • メディア: Prime Video

攻殻機動隊 (1)    KCデラックス

攻殻機動隊 (1) KCデラックス

  • 作者:士郎 正宗
  • 発売日: 1991/10/05
  • メディア: コミック