押井ファンが歯ぎしりしながら羨むメタ展開/幻の『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』

「オルフェンズ見た?」 「一期、かなりよかったですね。二期はまだ途中まで。話数的にもちょうど折り返し地点ってところなのかな。ちょっと時間が取れなくて、録画を消化するのは来年になるかもしれないのですが、リアルタイムで放送を追ったほうが面白い感じですか?」 「あー。それなんだけれど、ちょっとね。確か一期が終わったとき、君はオルフェンズ二期について、けっこう真剣に展開予測を語っていた覚えがあるのだけれど」 「Yes。真剣かどうかはともかく。大筋としては、 ・前線の将でいられなくなるオルガが今(一期終了時点)の求心力を保てるか ・個々の事情を持ちかつ騙されやすそうな少年兵達から、裏切り者の登場をどう予防するか ・実際に裏切り者が出てしまったとき、これをどうするか という問題が発生するので、これを脚本がどう回避するか、あるいは、重いテーマに真正面から挑むか、という2ラインだろうと予測したはず。描くのが楽なのは圧倒的に回避コースだけれど、個人的には後者のラインが見てみたいし、一期を見る限りでは、オルフェンズは後者のラインを選び、それを描く力が制作陣にはあると思ってます」 「うーん。僕はガンダムファンだから、というのもあって、リアルタイムで視聴しているのだけれど。君のその予測は覚えていたから、君は二期を見ないほうがいいかもしれない、と今はちょっと思い始めてる」 「あ、やっぱり?」 「やっぱりって何?」 「ツイッタを見てると、どうしてもネタバレが混じって来るから」 「なら言うけれど、君の期待はだいたい外れた」 「どうやらそのようで。私が見た限りの範囲でも、2期は大筋では裏切り者エピソードをやりながら、その筋を微妙にずらして一番やりずらいラインを回避していたから、ちょっと嫌な予感はしていたのですが」 「制作陣も、ツイッタで余計なことを言い始めたりしてね」 「その話も漏れ聞いてます。大筋では、2期が終盤、視聴者たちの目の前でガタガタと崩れていき、同時に物語が終息したことで制作陣がネタバレの心配が無くなって作品意図を説明しはじめたところで、とんでもない認識の齟齬があったことが判明した、という話なのかな」 「最初からバットエンドにするつもりがあり、主人公たちは作中でバットエンドを迎えるにふさわしい悪役として描いていた、と」 「虐げられている現状に抗って戦い、立身していく弱者としてではなく、ね」 「どうしてこうなった!」 「それはもう、不幸な認識の齟齬としか言いようがないかなと。制作陣の拙さが起こした悲劇かもしれないけれど、制作陣も視聴者も悪くないのでは。 どっぷり嵌っていたファンやガンダム好きの方々には悪いけれど、ごめんなさい、外野からウォッチしていると、作品周辺の騒動、滅茶苦茶面白いです。『俺達の見ていた鉄血のオルフェンズとは、いったい何だったんだ』って。 これは、単なる笑い話でもなくて、アニメ業界はここから何かしら学ぶべき失敗例ではあると思いますが。 ネタとしては、ツイッタに氾濫する『もし押井監督が〇〇を作ったら』を思い起こさせる深い味わいがありますね」 「なにそれ」 「『俺達の好きだった鉄血のオルフェンズは、実は存在しない。最初から有りはしなかったんだ』ってやつです。まさかこんなネタを分割4クールのアニメ作品で、しかも作品そのものを主題にやる作品が登場するとは。ガンダムファンは、押井ファンが歯ぎしりしながら羨む稀有な経験をしましたね」 「俺、前に君に押井監督の『Avalon』見させられたとき、途中で寝たんだけれど」 「私はあの時最後まで見ましたよ。退屈だけれど面白い映画だった。私ばかり面白くて、本当に申し訳ない」

アヴァロン ― オリジナル・サウンドトラック

アヴァロン ― オリジナル・サウンドトラック